BRIDGING SUPPORT PROJECT

文化芸術によるブリッジング事業支援制度

クラウン×医療

事業名
ホスピタル・クラウン 〜闘病中の子どもたちに笑いと感動を〜
申請者
NPO法人 日本ホスピタル・クラウン協会

事業概要

病院へクラウンが定期的に訪問し、闘病中の子どもやその家族に対してパフォーマンスを行うことで、子どもたちの心を笑いで癒す。
名古屋市立大学病院や名古屋大学医学部附属病院などへ、2019年12月〜2020年1月の期間に22回訪問。

NPO法人 日本ホスピタル・クラウン協会

所在地は名古屋市中村区。2006年設立。全国95の小児病棟を定期的に訪問し、入院生活を送る子どもに対してクラウン(道化師)がパフォーマンスを行うことで、本来の子どもらしさを失いがちになっている子ども達に笑顔を届け、キラキラした瞳を取り戻すお手伝いをしている。

レポート

「闘病中の子どもたちに笑いと感動を」、事業名称にすべてが言い表されている、NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会の活動。今回の支援は2019年12月〜2020年1月までに市内の病院へ22回訪問する事業が対象ですが、その活動は2004年からスタートし多岐にわたります。本来であれば実際にクラウンが子どもたちの元へ訪問している様子をレポートすべきですが、諸般の事情でそれが叶わず・・・。そこで、評価委員の久留智之教授(愛知県立芸術大学)とともに、日本ホスピタル・クラウン協会の事務所を訪問し、協会理事長の大棟氏と対談を実施。設立当初の話や闘病中の子どものもとへ訪問するときに気を付ける点、今後の展望や目標についてのお話をうかがってきました。

クラウンの魅力は脇役性、子どもたちが主役です。クラウンの魅力は脇役性、子どもたちが主役です。

久留
私の専門は作曲ですが、日本ホスピタル・クラウン協会さんのような活動、社会的取り組みに興味を持ちました。いつからこのような活動を?
大棟
2004年から始めています。平日の午後に定期的に病院を訪問し、病室でパフォーマンスするというスタイルを15年間続けています。
久留
当時を想像するに、クラウンが病院に入っていくのは厳しかったのではないですか?
大棟
病院という場所は、何かあれば命に関わるので、当然ですが何も無いことが一番大事なんです。そんな中で、当時の医療従事者の中で、我々を受け入れてくれる方がいたおかげで今があると思っています。
久留
そもそも、大棟さん自身はなぜクラウンの道に?
大棟
僕は「人を楽しませられない人間」というコンプレックスがあったので、それを変えたいと思っていました。社会人になってから、クラウン入門講座の案内を見つけ、性格を変えられるかなと思って受講したのがきっかけです。
久留
実際どのようにやっているんですか?病室に入っていくんですか?
大棟
病室に入ります。クラウンのいちばんの魅力は脇役性です。つまり、相手を主役にする。病院においては子どもたちが主役です。子どもたちが子どもらしくあるためには、やっぱりひとりひとりに接した方がいい。
久留
ひとりひとりのところに行ってやるわけですね。何か気をつけていることはありますか?
大棟
病室には丁寧に入ります。病室は彼らのプライベート空間ですから、どういう距離感が彼らにとって快適なのか、子どもたちの表情を読み取りながらやっています。
久留
病室では何をすることが多いですか?お話ですか?
大棟
もちろんお話することも多いですけど、マジックも多いし、バルーンをすることも多い。(バルーンアートの実演を目の前で披露)

子どもたちをあえて楽しませ過ぎない・・・。子どもたちをあえて楽しませ過ぎない・・・。

久留
子どもにかける時間は?
大棟
5〜10分くらいですね。子どもと一緒に記念写真を撮ることもあります。写真を撮れば思い出が残ります。あとは、子どもたちをあえて楽しませ過ぎない、ということも気をつけています。我々が思っている以上に闘病中の子どもには体力がない。だから、すごく楽しかったんだけど、夕食があまり食べられなかった、ということが起こるかもしれない。「え、ここで終わるの?」ってところで終わることもあります。我々は定期的な訪問をしているので、子どもたちは次を期待して待っていてくれるんです。
久留
やっぱり、色々な技術を駆使されているんですね。
大棟
気持ちだけでもできないし、技術だけでもできないと思っています。病院を訪れる前にクラウンは、風疹、はしか、水ぼうそう、おたふく風邪の抗体を基準値まで作ります。あとは毎年の健康診断の結果を出してもらいますし、インフルエンザ予防接種も医療従事者と同じタイミングで全員に受けさせます。病室に入っていく訳ですから、それくらい細心の注意を払っています。
久留
病院以外の施設を訪れることはあるんですか?
大棟
老人ホームやターミナルケア施設にも行きたいと思っていますが、まだクラウンの養成が間に合っていない。今、全国の95病院を訪問していて、研修生も含めるとクラウンの人数は150人規模。僕はこれを倍くらいにしたいと思っています。クラウンを300人養成できれば、おそらく全国の長期療養の子どもたちのところに満遍なく供給できるようになると思うし、そうなりたいという目標をもってやっています。

病院にクラウンがいることが当たり前という文化を作りたい。病院にクラウンがいることが当たり前という文化を作りたい。

久留
今後の展望は?
大棟
病院にクラウンがいることが当たり前という文化を作りたいと思っています。僕は被災地にもずっと行っていて、熊本地震のときはかなり早い段階で現地に入ったんですけど、避難所の体育館はピリピリしていました。我々が訪問し、子どもたちを集めてパフォーマンスを行う。ちょっとの時間でも子どもたちを親から離してあげるだけで、大人は楽になります。そして子どもたちは、ものすごく笑いに飢えている。我々は先頭を走っている組織なので、空気抵抗を感じることもありますが、誰かがやらなければならないと思っています。また、アメリカには病院の格付けがあって、格付けの審査項目のひとつに「病院にクラウンがいるか?」という項目があるんです。患者さんのクオリティ・オブ・ライフのひとつにクラウンが入っているんですよ。それは子どもたちが子どもらしくあるために、病院ができることとして、クラウンが社会に受け入れられている。日本でも、そのような文化が根付けばいいなと思っています。
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1.「子どもたちを主役にしたい」との思いから、闘病中の子どもたちが作った3,000枚以上の折り紙のカエルを展示。その枚数がギネス世界記録®︎として認定された。2.協会の所蔵する資料の一部、アメリカではホスピタル・クラウンが一般的になっているため、精巧なおもちゃが製作されているのだという。3事務所には子どもたちから届いた手紙が大切に保管されている。4.事務所に併設された練習場で大棟氏自らがパフォーマンスを披露。ここでクラウンの養成も行われている。5.得意のバルーンパフォーマンスを披露する大棟氏。部屋には大棟氏が収集したサーカスのポスターが壁一面に飾られている。6.クラウンが病院内のプレイルームを訪問し、闘病中の子どもたちに笑いを届けている様子。

評価委員コメント

1.文化芸術×他分野との連携の必要性や課題

ややもすると日本社会においては、文化芸術は政治的施策の中で後回しにされる傾向にある。もちろん基本的生活を送るためのインフラや医療環境の整備、教育の振興、福祉の充実、産業の活性化などの重要性は論を待たないが、それらが確立されてから文化芸術が必要になるわけではない。質の高い文化芸術が生活の中にあってこそ初めて豊かな人生を送れるのである。また文化芸術とはアーティストがそれを行い、一般人が享受するというようなものではない。各人それぞれの人生の中にあり、それなくしては人間の一生とは言えないようなものである。アーティストは、そのための気付きや問い掛けを社会に対して行っている存在である。NY同時多発テロや東日本大震災などの社会が大きなダメージを受けた時にまず真っ先にメッセージとして作品制作や公演が行われるのはそのためである。今回他分野との連携を支援する取り組みが制度化されるのは大変良いことではあるが、本来は様々な領域の人が文化芸術と連携するのは当然のことであり、日常的にある程度の質が担保されてそれが行われていることが望ましい。しかし、現実的には異分野の人と文化芸術を通して連携していくことは分業化が進んで時間に追われる現代社会においては難しい。この制度により様々な連携を活性化してゆくことは、公的機関の取り組みとして意義あることである。それにより文化芸術が2番目3番目ではなく、それぞれの人生における1番大切なものの一つであるという意識が社会の中で育ってゆくことを期待する。
以下に本評価委員による本事業に関連した取り組みをいくつか紹介する。いずれも作曲家や音楽的アドヴァイザーとして関わったものである。
* インド・ムンバイ「光の教室」におけるJICA(国際協力機構)の「草の根技術協力事業」の一環として行われた「スラムの子ども達の自立力向上のための音楽指導者育成計画」2011~2013 :スラムの子ども達による表現集団を結成し、公演活動を通して彼らが住むスラムの文化や楽しみを広く伝え、地域の中に協力者を獲得することによって、地域社会と一体になった、より多くの子どもに対応できる教育環境を整えていくことを目標としている。/ 連携:音楽(ミュージカル)、ダンスと福祉、教育、医療、国際交流
* 広島交響楽団の教育プログラム:オーケストラによる地域の小・中学生を対象とした新しい音楽教室の提案。/連携:音楽(クラシック)、ダンス(バレエ)と教育(教育委員会)、研究(音楽教育、民族音楽)
* 広大アートファーム:広島大学の領域を超えた学生のグループによるアートマネージメントを学び実践する団体。/連携:音楽(多ジャンル)、芸能(獅子舞)、映像(九州大学)と地元企業(酒造、ガス等)、まちづくり、教育(幼児から高等教育まで)、研究(学会)
* アンサンブルアッカ:現代音楽演奏団体。地域(広島)における現代音楽の紹介と世界への創造発信。/連携:音楽(現代音楽)と公共ホール、教育(教育プログラム)、国際交流(新作委嘱、公募)
* グリーン・コンサーツ「21世紀の日本・アジアの子守唄の創造」:地球環境問題やNY同時多発テロ、付属池田小学校事件などの社会問題へのアートからの発信。2002~2011/連携:音楽と企業(メセナ)、メディア(新聞)

2.評価事業の当初の印象

「クラウンと医療との連携」という組み合わせに当初から興味を引かれたが、申請書に目を通し、また面接をして質問を重ねるうちに、ホスピタル・クラウンの歴史は古く、NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会という組織もしっかりとしたものであることが理解された。その活動の内容には、連携事業として大きな魅力を感じたが、病院という制約の多い空間の中でどのようにしてその活動が可能なのか、またその組織の維持はどのようにしてなされているのかなどの疑問を持った。また全国的な展開をしている割には、まだ一般的な認知度が低いようにも感じられた。クラウンと病院という連携自体はもうすでに実際にうまく機能していることが確認されたため、協会の活動の広報について支援という形でプロモーションヴィデオの制作を行えるような映像制作者との連携の提案を行った。ただ病院という現場の性格上カメラが入ることが難しいであろうことが予想されたことと、クラウン(道化師)が役に入り込む過程の化粧を施している行為を映像化することは禁じられているなど幾多の障害もあることなども面接時に確認された。さらに音楽、学術研究、映像などとの連携の可能性についても提案を行った。

3.評価事業との関わりや伴走型支援の内容

今回コロナウイルスによる新型肺炎感染を避けるために、予定されていた名古屋大学病院や名古屋市立大学病院での実際のホスピタル・クラウンの活動の訪問観察はキャンセルとなった。そのため名古屋市中村区にある日本ホスピタル・クラウン協会を訪問し理事長の大棟耕介氏と面談し、活動の主旨と思いを伺った。また、養成所や事務所も兼ねる施設の視察も行った。ご自身がクラウンでもある大棟氏の実演も交えたお話を聞き、ホスピタル・クラウンの活動を文化として根付かせたいという熱い思いに心動かされた。また、病院という特殊な場所でパフォーマンスを行うに当たっての万全な感染症対策や病院側との打ち合わせ、さらに治療優先の窮屈な生活を余儀なくされている子ども達に「病気の子ども」ではなく、「子ども」に意識してパフォーマンスを行うという態度、その場にいる看護師や医師、親族にも気配りをしてあたたかい空気を創造し、子ども達に本来の笑顔を取り戻してもらうという説明を受け、当初抱いていた「どのようにして病院という制約の多い空間で”笑い”の活動が可能なのか」という疑問の多くは払拭された。
伴走型支援の内容については、ホスピタル・クラウン協会の活動に関するプロモーション映像を名古屋版アーツカウンシル準備委員会サイドで制作して公式ウェブサイトに掲載すること、ホスピタル・クラウン協会が作成するフライヤーなどを、名古屋商工会議所や、名古屋市内文化小劇場等の文化施設への配架を行うことでホスピタル・クラウンの活動への賛助者を増やすこと、大学等でフライヤーを配布し、協会の活動やクラウン養成講座について知ってもらい興味を持ってもらうことなどである。

4.伴走型支援をしたことで評価事業にもたらした影響

新型コロナウイルスの感染症拡大の影響により予定されていた評価事業の訪問視察が中止されたため、この項目に対するコメントをすることは難しいが、逆に病院という特殊な場所における活動のリスクを知ることができた。他の社会的活動に先んじて協会の活動はキャンセルされたため収入がなくなり、活動の維持がすぐに困難になってしまう事態が生じたのである。伴走型支援の広報サポートにより、この活動の重要性について社会的に認知が広がり、法人会員などの賛助会員の増加につながっていくことを期待する。

5. 日本ホスピタル・クラウン協会に与えた影響や変化、今後期待すること。

ホスピタル・クラウン協会への訪問により協会の若く活気あるスタッフの様子や練習の視察などを通して高度な技術の必要性などが確認できたが、この意義深い活動を継続させ、社会に文化として根付かせるには社会からの支援も欠かせないことが、図らずも新型コロナウイルスによる感染症拡大という事態から明らかになってきた。今回の広報的支援の取り組みを端緒に、様々な実践をしてゆくことにより、歴史を古く持つクラウンという存在の意義について社会が再認識して様々な場面で重用されてゆくことを期待する。例えば芸術系大学などと連携した病院アウトリーチ活動など、すぐに成果が望めそうなものもある。またクラウン(道化師)の活動は、世界に広く認められるようであるので、パフォーマンスを伴った国際コンフェレンスのような交流が名古屋において実施されるなどすれば、社会的認知度は高まるだろう。

6.名古屋における文化施策推進体制準備委員会や当支援制度に期待すること

名古屋における文化施策推進体制準備委員会という組織は、文化芸術の振興を目的に各種事業への助成を行う機関であるが、助成などの支援のあり方自体を問い直してゆくことも求められているのだろうと思う。その一つの方策として、その地域に存在する魅力ある文化芸術活動を他分野の活動と結びつけ、そのことによって新たな価値観を生み出し、社会の抱える様々な課題にアプローチしてゆこうというのが、このブリッジング事業支援制度なのであろう。このような制度を実施してゆくには、スタッフには高い専門性が必要とされるとともに評価する側にも柔軟な発想に対処できる想像力が求められる。名古屋という場所にふさわしく、名古屋特有の質の高い文化芸術が、この異領域を結びつける交流によって生み出されていくことを期待する。このような支援制度は、目に見える形ですぐに効果が確認できるような性格のものではないので、早急な評価を求められることにより制度打ち切りにならないように、長期的に予算化され、継続されていくことを望むものである。ある程度試行錯誤はあるだろうが、まずは多くの取り組みが行われることではないだろうか。常に文化的な活動があちこちで行われているという状況を生み出すことが、質の高さに繋がってゆくだろうと思うからである。また文化を創ることは時間がかかるというコンセンサスの形成も必要で、支援期間や評価についても長期的視野に立った制度が求められているのだと思う。

評価委員

久留智之

愛知県立芸術大学音楽学部音楽科作曲専攻教授。主な社会的活動実績として、2000年 第15回国民文化祭広島県実行委員、2001年〜アンサンブル アッカ芸術顧問、2002年〜2009年 広島交響楽団理事、2002年〜子ども未来音楽工房芸術監督を務めるなど、多方面で活躍。