BRIDGING SUPPORT PROJECT

文化芸術によるブリッジング事業支援制度

演劇×観光

事業名
演劇公演 「尾張名古屋は母でもつ」
申請者
劇工房MAKO企画

事業概要

2019年

11月22日 ①14:00 ②19:00
11月23日 ③13:00 ④18:00
11月24日 ⑤11:00 ⑥16:00

  • 会場/宝亀山 相応寺本堂(名古屋市千種区城山町1-47)
  • 作・演出/眞己 薫
  • 空間演出/小川 珊鶴
  • 振付/志乃舞 優
  • 作曲/石山 イチロ
  • 主催/劇工房MAKO企画
  • 共催/名古屋版アーツカウンシル準備委員会
  • 協力/NPO法人本丸ネットワーク、宝亀山 相応寺

実施結果(6公演合計)

入場者数:735人
来場者アンケート好評価率:96.6%
※好評価率は「よかった」「まあよかった」「あまりよくなかった」「よくなかった」の4段階評価のうち、「よかった」の集計。

劇工房MAKO企画

所在地は愛知県豊明市。代表の眞己薫が、「劇団という形にとらわれず、より良いものを提供していこう」という考えで1999年に前身となるMAKO企画を設立。2004年に劇工房MAKO企画と改める。芝居スタイルにはこだわらず、様々な作品を世に送り出している。

レポート

名古屋を拠点に活動する、劇工房 MAKO企画の設立20周年記念作品として制作された本公演。本作の主人公である尾張藩祖・徳川義直公の生母「お亀の方」の菩提寺・宝亀山 相応寺本堂を舞台に演劇公演を開催することで、まだあまり知られていない「お亀の方」という歴史的人物と、歴史的建造物である相応寺という2つの新たな「観光資源」を多くの方に知ってもらいたい・・・。主催である劇工房MAKO企画と協力団体のNPO法人本丸ネットワーク、宝亀山 相応寺。三者の想いが実を結んだ公演は、連日多くの方でにぎわっていました。

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1.宝亀山 相応寺本堂の外観。尾張藩祖・徳川義直公が、生母・相応院お亀の方の菩提のため建立。昭和9年に、名古屋市東区山口町より、現在地へ移建された。 2.実際の本堂の前に3つのステージを仮設。花道家・小川珊鶴による空間演出が趣ある雰囲気を際立たせていた。3.由緒ある相応寺での演劇公演とあって、連日多くの来場者で賑わっていた。 4.各公演の前には相応院の位牌に、生田流箏曲三つ音会による献箏を実施。 5. 相応院お亀の方の数奇な人生を、ドラマチックに演出。 6. 終演後のカーテンコールの様子。キャスト、スタッフが一体となり、劇場での公演とは趣向の違う演出を見事に演じ切っていた。

主催者の振り返り

計画(PLAN)

歴史的建造物である相応寺本堂を舞台に、お亀の方をテーマにした演劇を開催することで、名古屋の歴史をより多くの方に知ってもらいたいと思い計画しました。

実行(DO)

ポスター・パンフレット制作などの広報について、名古屋版アーツカウンシル準備委員会はじめ、多くの方の支援や協力を受け、多方面で告知することにより、予想以上の来場者で連日盛況となりました。

評価(CHECK)

「名古屋を好きになった」「歴史に興味をもった」「名古屋城にも行ってみたいと思った」など、来場されたお客様やアンケートの結果からもたくさんの好評価をいただき、率直によかったです。実際の菩提寺を会場としたことで、より臨場感を持ってご覧いただけたと感じています。

改善(ACT)

公演関係者や来場者など、多くの方から再演を望む声をいただいています。今回の支援内容で、広く周知する重要性を再確認しました。今回の経験や手応えを糧に、再演についても現実的に検討していきたいです。

評価委員コメント

1.文化芸術×他分野との連携の必要性や課題

文化芸術は、高貴なもの、ゆとり・ぜいたくの象徴のようなイメージが一般的ではないだろうか。金持ちの優雅な趣味と考えれば、公的な支援の必要性はあまり感じないだろう。そういう一面があるのも事実だと思うが、公的な支援制度を考える上では、切り離して考える必要がある。文化芸術は、人間の心の問題を治療できるもので、社会に必要なものであることをまず認識してほしい。
以前イギリスの公共劇場視察で、グラスゴーのシチズンシアターを訪問し話を聞いた。刑務所の受刑者向け事業を行っており、多くの受刑者が出たり入ったりしている状況があったが、演劇作品作りに取り組んでもらうことにより受刑者の自信回復を図り、再犯率を減らすことにつながったとのことである。このような取り組みがイギリスの他の劇場でも行われ、そのような社会包摂の事業にこそ公的支援がなされるべきであることが、イギリスの芸術評議会では当たり前とのことであった。
文化芸術は、人の心に働きかけるものであり、心の病を治療する力があるものであり、文化芸術の分野だけで考えるものではなく、福祉、教育など他分野と連携するのは当然必要なことである。
日本でもイギリスと同様に文化芸術による社会包摂事業の試みが一部で始められているが、まだ理解が十分されているとは言えない状況である。弱者に対して文化芸術を提供することが重要であると言われても、採算などを考えて事業化できないことが多い。お金と時間に余裕のある高齢者向けの事業を行い、集客ができることで成功と考えてしまいがちであるが、公的支援事業であればその考え方を改める必要がある。また、芸術団体、芸術家などが生活の糧を稼ぐために、弱者ではなく、お金を出してくれるほうへ向いてしまいがちでもある。そうした状況を公的機関が上手に調整する仕組みをつくることが必要であり、課題である。また、実際に社会包摂事業に取り組んでも、評価され、多くの市民の理解が得られなければ事業の継続も難しいため、社会的な効果を測定する方法の確立が課題である。

2.評価事業の当初の印象

本評価事業は、観光との連携を掲げ、劇団が申請したものであったが、観光をどのように捉えているかについて当初は不安を感じた。公演会場周辺地域の観光であるなら、地域性の理解や配慮が必要であるからである。会場の近くには日泰寺、揚輝荘などがあり、観光資源になり得るものが豊富にある地域であるが、地域住民の観光への抵抗もあることを把握していたため、その対応が気になるところであった。2次審査のヒアリングにより、演劇の題材として扱う「お亀の方」を名古屋全体の観光資源にすることを考えていると確認できたことで、前向きに評価できた。お亀の方については、今までにない着眼点であり、名古屋の新しい人物資源としての可能性は大いにあると判断した。会場となる相応寺は、お亀の方の菩提寺であることで公演の動機になっていることは想像でき、歴史を感じることができる本堂の空間は演出上効果的な場所になるだろうと期待した。ただし、現状ではお亀の方も相応寺も知名度が低いため、浸透し観光につなげていくにはかなり時間がかかると感じた。劇団からのみの提案では、単発の企画で終わり効果は低いと思ったが、本丸ネットワークとの連携が提案され、尾張徳川家の春姫など他の人物との関係も考慮されたうえで今後の展望も語られたので、今回支援することが名古屋の新しい観光資源を生み出すための第一歩として大変有効であると確信した。

3.評価事業との関わりや伴走型支援の内容

本評価事業公演の開催前に企画について採択者と打ち合わせを行った。当日配布のパンフレットに、演劇の題材であるお亀の方の説明や地域の情報などを掲載し、公演後も観光PRに使用できるようなものにすることを助言した。趣旨は理解されたが、開催までの時間が短いこともあり、地域の情報の掲載はできなかったが、公演パンフレットは保存版として立派な印刷物として残った。地域情報は地域で活動している市民団体「ちくさ・文化の里づくりの会」が作成した散策MAPの配布が効果的であると考えたが、参加者数に対し残数不足のため実現できなかった。その代わり、この公演に合わせて作成したという会場である相応寺のパンフレットを配布したほか、市民団体が開催する地域イベントの案内チラシの配布により、地域の魅力をPRすることができた。
伴走型支援により実現したのが、名古屋市文化振興事業団が主催した歴史講演会「相応院お亀の方と尾張徳川家の創出」との相互の広報協力であった。市民団体「ちくさ・文化の里づくりの会」の代表である高木傭太郎氏の講演会であり、評価委員である川本も公演PRに努めたこともあり、ちくさ・文化の里づくりの会のメンバーへ「尾張名古屋は母でもつ」の公演の認知は進んだ。地元団体であるため、公演当日のスタッフ参加の可能性も期待したが、事業団のボランティアスタッフとの関係もあり、口コミでの広報協力と有料の観客として参加することで貢献してもらうことになった。

4.伴走型支援をしたことで評価事業にもたらした影響

名古屋市文化振興事業団主催の歴史講演会と連携することができたため、評価事業の集客につながったと思われるが、それだけでなく、それぞれのチラシの配布により、お亀の方が尾張藩祖である徳川義直公の生母であるということを広く知らせることにつながり相乗効果が得られたと思われる。事業採択者の熱心な広報活動に加え、伴走型支援による市民への安心感醸成(ある意味公共性の担保といえる)、さらに新聞でも告知されたことにより、観客数は予定以上になり、客層も広がった。観客アンケートによると、歴史好きの方やお亀の方に興味のある方の参加が多かったことがわかるが、これは伴走型支援の効果であると思われ、公演が高評価であったことを考えると、演劇公演がお亀の方という歴史及び観光資源を活かす可能性が期待できるということを明らかにした有意義な事業であったといえる。公演の成功は、再公演の意欲にもつながるため、連携分野として設定した観光への展開が今後期待できる。
また、今回実施された「尾張名古屋は母でもつ」公演は、主催者側の従来の活動のつながりがあり、かつ名古屋版アーツカウンシル準備委員会の支援があったことで、市長の観劇にもつながり、全庁的な知名度が高まることで、他分野の施策の展開につながる可能性も期待でき有意義であったと思われる。

5.劇工房MAKO企画に与えた影響や変化、今後期待すること

一般的に劇団の公演は、観客は常連客がほとんどという傾向があり、劇団は熱烈なファンに支えられているケースが多い。しかし、今回は伴走型支援により、広く広報したこと、テーマを名古屋の歴史的な内容にしたことなどにより、劇工房MAKO企画の公演を今回初めて鑑賞した観客が多かったのが特徴的であった。このことは事前に予測されたことであったので、劇工房MAKO企画にとって、大きな飛躍のチャンスになったと同時に試練でもあったと思われる。演劇公演の質が伴わなければ、評判を落とし今後の機会を失うことにもつながるため、今まで以上に稽古などにも力が注がれたことと推察する。地元の歴史を題材とした教育的な内容の芝居に対し、観客を魅了する脚本、演出などにしっかりと取り組んでいたことに対して、大変評価したい。特に、寺院の本堂という設営が難しい会場において、最大限の効果を出すための空間デザイン、音響デザインなどはよく考えられていた。会場である相応寺との協力関係も良好であったようであり、公演関係者のチームワークの良さを感じた。今後も、協力関係の枠をさらに広げ、地域などとも連携し、演劇公演によるコミュニケーション促進の力を発揮してもらえることを期待する。

6.名古屋における文化施策推進体制準備委員会や当支援制度に期待すること

名古屋における文化施策推進体制準備委員会は、文化芸術(音楽・演劇・舞踊・伝統芸能・美術・文学・生活芸術など)の力を他分野(まちづくり・国際交流・観光・産業・教育・福祉など)に活かすことにより社会の様々な課題に取り組む事業を支援するとされている。そのためには、まず他分野に文化芸術の力を認識してもらう必要があるが、現在は試行期間・準備段階として、本支援制度を活用して、他分野への文化芸術の活かし方を探っている段階であると思われる。そのため、事業成果の評価は、文化芸術の専門家が行うだけでなく、該当する分野の専門家にも評価してもらうのが望ましい。そして、他分野の関係者が、ぜひ文化芸術を活用し、社会的な効果を得たいと感じてもらうことが重要であろう。
今後、名古屋における文化施策推進体制準備委員会については、文化振興の部署だけでなく、名古屋市の全庁的な取り組みとして展開していくことを期待したい。そして、評価方法の確立が重要であり、事業の効果を検証する仕組みが必要である。短期的な検証で評価が決まらない難しさはあるが、まずは評価方法を検討することが、文化芸術の価値を議論しその価値に気づくことにもなり、必要なことだと思う。また、支援制度を継続することにより、文化芸術関係者の意識を変え、芸術至上主義ではなく、文化芸術の社会的役割に目を向けてもらえるようになり、そこことがより文化芸術の価値を高めていくことにつながると期待する。

評価委員

川本直義

株式会社伊藤建築設計事務所取締役・エルイー創造研究室長。2000年〜2002年までは、今後の劇場のあり方を議論する「世界劇場会議国際フォーラム」の事務局長を、2001年よりNPO法人世界劇場会議名古屋の理事を務めるなど、地域の文化振興活動をしている。